1 はじめに
「中堅国家(ミドルパワー)をはじめとする国々は無力ではない。」これは、令和8年1月、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるカナダのマーク・カーニー首相の演説の一節です。
これまで「ルールに基づく国際秩序」が当たり前だった国際社会は今、深刻な分断に直面しています。国連や WTO、COP などの多国間調整システムが機能低下し、エネルギ ー、食糧等について自立性の確保が求められる時代となり、そうした中で、カーニー首相は今こそミドルパワーがその正当性、誠実さ、ルールに基づく力の強さを行使するときで あり、共通の基盤を共有するパートナーと課題ごとに機能する連合を構築する取組みを始めるときだと述べています。
我が国でも、実に多くの自治体が少子高齢化、人口減少の中、様々な分野において多種多様な課題に向き合っています。混迷する国際情勢、変化する行財政環境を踏まえ、まずは課題を正確に捉え、それぞれの課題に応じた連携、すなわち「つながり」を強化し、的確な市政運営に努めてまいります。
2 社会情勢に対する所感
世界は、1989 年のベルリンの壁の崩壊に象徴される東西冷戦の終結の後、1990 年代に に入りますと「グローバリゼーション」の大きな潮流のもと、政治、経済、環境など様々 な分野において、地球を一つの共同体として捉え、ヒト・モノ・カネ・情報が世界中を高速で流動する社会が形成されました。しかし、2026 年の今、残念ながら世界は一つとは逆方向の「自国ファースト」が声高に叫ばれ、領土、宗教、経済等をめぐる争いが各地で頻発し、地球規模で分断と孤立化が 進んでいます。かのフランシス・フクヤマ氏の有名な論文「歴史の終わり」で提言された「自由と民主主義による協調」という概念が脆くも崩れようとしています。
国内に目を向けますと、少子高齢化、人口減少が進む中、AI 等の時代の先端をいく各種スタートアップ等の業種が活況を呈する一方、福祉や医療、公共交通等社会を下支えするソーシャルワーカーの確保が課題となっています。下田市を含む地方都市では、事態はさらに深刻であるため、それらの社会構造の変化を踏まえた適応対策を進めるとともに、 将来につながる新しい社会システムを構築すべきと考えます。
3 令和8年度の市政運営方針
令和8年度は、第5次下田市総合計画の後期基本計画、後期5カ年がスタートします。この後期基本計画は、基本構想に定めるまちの将来像「時代の流れを力に つながる下田 新しい未来」のもと、「海と人に感動、開国フロンティア下田」を目標に掲げ、次なる5年間の市政運営に踏み出します。
人口減少、少子高齢化による社会の担い手不足、物価高騰等による財政のひっ迫など、ともすれば閉塞感に陥るリスクがあります。しかし、こういう時こそ幕末開港のまち下田市として、将来に向けた志を掲げ、萎縮せず、壁を突破する取組に挑戦することが肝要と 考えます。
令和8年度の市政運営においては、特に重点的に取組む方針として「つながる」、「グロ ーカル」、「公共経営改革」の3つを掲げました。
重点方針の一つ目は、第5次下田市総合計画基本構想に掲げるまちの将来像に基づき、「つながる」とします。
カーニー首相の言葉、「課題ごとに機能する連合の構築」のとおり、賀茂地域や伊豆半島における広域市町間の連携、国・県との垂直連携、公有財産の活用への民間活力の導入、 地域課題の解決に向けた産官学の連携、防災や福祉の充実に向けたボランティアとの連携、行政課題の解決に向けた市民との協働、ふるさと応援寄附や二地域居住等による関係人口 との連携等、課題ごとに異なるネットワークを構築することで、様々な主体とタテヨコに連携するプロジェクトを幅広い分野において展開します。
重点方針の二つ目は、「グローカル」です。
本年度は、第1期グローカル CITY プロジェクトの最終年度となります。アメリカ合衆国建国 250 周年の節目での黒船祭、大学等研究機関との共同研究事業などを実施します。 また、ローカルをテーマとして、歴史と文化の継承やサーフシティ構想の推進、海の環境保全プロジェクト等、下田市の地域資源の再評価や活用を展開してまいります。
翌 2027 年度からスタートする第2期のグローカル CITY プロジェクトに向け、内容を深化するべく各分野において検討を行ってまいります。
重点方針の三つ目は、「公共経営改革」です。
令和7年度末までに「下田市の公共経営改革に向けた実行計画(令和8~12年度)」が 取りまとめられます。令和8年度は、下田市の行政の効率化と財政基盤の強化を目指し、すべての分野において改革をスタートします。
市役所新庁舎整備事業は、いよいよ完成が近づき、本年5月には全面移転が完了します。 行政機構が集積することで各種行政システムを抜本的に見直し、効率的で、かつ質の高い 行政運営を行ってまいります。
4 令和8年度の当初予算編成
続きまして、令和8年度の予算編成について、御説明申し上げます。(1)令和8年度予算編成の方針
令和8年度当初予算は、将来を見据え、行財政の体質改善を図っていく「公共経営改革の推進に向けた取組方針」に基づき、ムダを徹底的に廃し、さらに新たな財源の確保によ り、今後も魅力的なプロジェクトにチャレンジしてまいります。中でもとりわけ重要なものが危機管理投資です。まちの安全を強化するための各種事業を行うことで、平時でも活用できる、即ち未来の希望につながる防災事業を展開してまいります。令和8年度は、第5次下田市総合計画の後期基本計画の初年度となることから、単年度はもとより、中長期を視野に入れたより実効性のある予算とすべく、全職員が共通の目標を掲げ、高い意識を持って取り組むこととした上で、総合計画におけるまちづくりの4本の柱に沿って予算編成に当たることとしました。
(2)令和8年度の主要な取組
①美しく生活しやすいまち
本市の貴重な資源である自然、歴史、文化を将来に継承するとともに、快適で良好な住環境を提供し、住む人も訪れる人も自然のやすらぎと歴史への親しみを感じられる美しく生活しやすいまちを目指して、以下の取組を進めてまいります。本市の財産である海の環境保全におきましては、グローカル CITY プロジェクトの一環で、海洋環境の保全に向けた海の環境教育、海水浴場や海岸での清掃活動、外来植物の駆 除、海の通年活用等を推進し、美しい海の継承に努めてまいります。
景観形成におきましては、本市の自然や街並み、歴史的建造物等を生かした良好な景観の形成を図るため、各地域ごとの景観計画ガイドラインの作成を進めるとともに、下田登録まち遺産や歴史的風致形成建造物の保全と活用に努めてまいります。
森林や農地におきましては、高齢化や人口減少に伴う管理不全や鳥獣被害などにより里山の荒廃が深刻化していることから、農地の集約化や遊休農地の解消、地域ぐるみでの鳥獣被害対策、間伐等の森林整備等を進め、持続可能な里山づくりを目指してまいります。
環境への取組につきましては、更なる焼却ごみの減量化を目的に、リサイクル可能な紙類分別の徹底を図るとともに、キエーロ等の普及促進やリサイクル等の4Rを推進してまいります。また、アースキッズチャレンジなどカーボンゼロの実現に向けた環境教育の充実に努めてまいります。
広域ごみ処理事業につきましては、1市3町の枠組みで進めてきた施設整備が令和7年度末でいったん白紙となりましたが、環境改善への歩みを止めることなく、今後も最優先課題として今後のごみ処理施設計画の見直しを進めるとともに、ごみの減量化、資源化に向けた具体的な施策を展開してまいります。
伊豆縦貫自動車道の整備につきましては、更なる事業促進に向けて用地交渉や要望活動に取り組むとともに、(仮称)下田北インターチェンジ周辺においては、地域振興や防災等多機能な拠点となる道の駅整備に向けて基本計画策定など具体的な手続きを進めてまいります。
道路施設につきましては、小規模工事や修繕に係る道路包括管理を導入し、市道維持管理の質的向上と効率化を図り、適切な道路環境の保全に努めてまいります。また、橋梁の長寿命化と安全性の確保を図るため、志戸橋、中村橋の耐震補強工事を実施します。
公共交通につきましては、燃料高騰等に対する交通事業者への支援を行うとともに、市民の利用促進に向け、利用券の配布等を実施し、持続可能な地域公共交通の構築に向けた取組を推進してまいります。また、この春移転となる市役所用地を含む伊豆急下田駅周辺地区は、本市の玄関口であり、街のにぎわい拠点として重要な役割が期待されることから、FI や PPP 等の事業手法等も含めて、エリア一帯の整備基本構想の策定を行ってまいります。
都市公園につきましては、敷根公園屋内温水プールの長寿命化計画を策定し、今後の維持管理の方針等を定め、効率的な施設運営に取り組んでまいります。さらに、伊豆縦貫自動車道の発生土を活用した新たな公園整備も検討してまいります。
②郷土への誇りと愛着を育むまち
子どもたちが、未来の下田を担う人材になれるよう、魅力ある教育内容を提供し、確かな学力と豊かな心、健やかな身体の育成に取り組むとともに、市民がまちに愛着を持ち、地域を支える人材となって、自分らしく輝いて暮らせる環境づくりを目指して、以下の取組を進めてまいります。グローカル人材の育成に向けて、姉妹都市ニューポート市や大学と連携した国際交流事業を通じ、国際的な視野と異文化への理解を養うとともに、地域資源や地域人材を活用した地域体験学習活動を推進してまいります。
高等学校等通学への支援につきましては、家庭環境にかかわらず進路を選択できる環境整備と、市内または賀茂地域内の高等学校の存続を目指し、新たに高等学校通学費補助制度を創設し、支援に取り組みます。
老朽化が懸念される図書館につきましては、中央公民館を活用して図書館機能と公民館機能の一体化による新しい文化と交流の創出拠点となる施設整備を推進してまいります。また、誰もが身近に読書に親しめる環境づくりとして、地域の店舗や事業所と連携したまちじゅう図書館事業を推進してまいります。
サーフシティの推進に向けて、サーフシティ構想で掲げた「サーフィンとその周辺領域が持つ価値をまちづくりに活かす」をテーマに、スポーツ、環境、ライフスタイル、関係人口、文化など、サーフィンの持つ多様な力をまちづくりに生かしてまいります。
スポーツにつきましては、競技スポーツの振興はもとより、健康増進や地域活性化、地域コミュニティ等幅広い社会的価値に着目し、年齢・性別・障害の有無にかかわらず、誰もがスポーツを楽しめる環境づくりを進めます。また、官民連携組織「下田市スポーツコミッション」によるスポーツ合宿・大会の誘致を進め、健康的で活力ある社会の実現を目指します。
③人が集い、活力のあるまち
従来の観光に磨きをかけ、さらに社会の価値観やライフスタイルの変化を捉え、生活と観光のいずれも楽しめる魅力あるまちづくりとともに、幅広い人々が集い、にぎわう、活力のあるまちを目指して、以下の取組を進めてまいります。令和8年度を初年度とする第3次下田市観光まちづくり推進計画(令和8~12年度)に基づき、本市固有の自然や歴史、文化、暮らしといったオーセンティック(日常にある本物)を本市の観光的価値と位置付け、その価値を最大限に活かす観光を推進してまいり ます。
また、観光を持続的に主要産業として発展させていくために、あらゆるステークホルダーがそれぞれの役割を明確にし、その強みを発揮できるよう支援し、地域が一体となった観光まちづくりを推進してまいります。
本市の貴重な資源である温泉について、これまで十分に活用してこなかったという反省を踏まえ、観光だけでなく幅広い分野での活用を図るため、包括連携協定に基づき、官民連携による積極的な取組を進めてまいります。
農業の振興につきましては、地域おこし協力隊や富士伊豆農業協同組合等の関係機関と連携し、高収益農作物の導入、新たな担い手の確保を推進し、持続可能な農業の振興を目指してまいります。
水産業の振興につきましては、下田港周辺の水産業の拠点としての機能強化を図るとともに、観光と連携した新しい産業の創出を図るため、伊豆漁業協同組合が行う魚市場の改修事業を支援してまいります。
商工業の振興につきましては、空き店舗を活用した新規出店が年々増加している今、この流れをさらに加速させ、旧町の賑わいの再生を図るため、下田商工会議所と連携し、空き店舗の有効活用を推進してまいります。また、下田ブランドの販売力向上を図るため、市内事業者へのアドバイスや新たな下田ブランドの確立に向けて、既存商品の磨き上げや新商品の開発を進めてまいります。
移住・交流居住の促進につきましては、移住コーディネーターや移住・定住支援サポーター等の活用や交流の場の創出などによる相談体制の充実を図るとともに、SNSを活用した情報発信や首都圏での相談会、移住体験ツアー等を進めてまいります。
地域の担い手として期待される関係人口につきましては、デジタルノマドや二地域居住の誘致を図るため、地域おこし協力隊やコーディネーターの配置による情報発信や相談体制の強化を図るとともに、滞在施設や活動施設の設置を進めてまいります。また、公共経営改革の柱のひとつとして期待されるふるさと応援寄附につきましては、下田の特産品を活かした返礼品の開発やプロモーションの充実・強化を図り、寄附額の増額を目指してま いります。
港湾の振興につきましては、従来の港湾機能に加えて、観光や交流等賑わいの機能を併せ持つ拠点となるように、管理者である静岡県と連携して港湾機能の拡充に向けたハード整備を進めるとともに、クルーズ船やプレジャー船の誘致、Sea 級グルメの普及や賑わいイベントの開催等のソフト事業を展開し、みなとまちゾーンのさらなる活性化を図ってまいります。
④安全・安心なまち
自然災害の脅威、犯罪や事件・事故に備え、市民の生命・財産を守り、安全・安心を実感できるまち、障害・年齢・性別等にかかわらず、誰もが個性を認め、互いに支え合いながら、心身ともに健康でいきいきと暮らせるまちを目指して、以下の取組を進めてまいります。南海トラフ巨大地震を始めとする自然災害に備えるため、災害用備蓄品の購入や災害情報管理システムの強化、可搬型空調機の配備等避難関連施設の整備を進めるとともに、防災講演会による市民意識の啓発や災害対策用品購入への補助等を実施し、避難の生活環境改善を進めてまいります。
さらに、各種団体等との避難関連の協定の締結や様々な機関や団体と連携した訓練の実施、ボランティアとの連携強化を図るなど、関係機関との連携、情報共有を進め、「危機管 理投資」を展開します。
耐震改修につきましては、地震による住宅の倒壊を防ぎ、一人でも多くの命を救うため、安価で効果的な耐震改修支援制度のさらなる推進を図るとともに、防災ベッド整備事業等 の減災事業も実施し、住宅の安全対策を推進してまいります。
消防団につきましては、自然災害及び津波浸水想定区域内にある吉佐美消防団詰所の移転等を進めるとともに、消防本部の移転についても検討を進めます。
健康づくりにつきましては、市民ひとりひとりがライフステージに応じた食生活や運動習慣等の生活習慣を身につけることができるよう、健康診査、保健指導に加え、介護予防と一体的なフレイル予防等を推進します。
子育て支援につきましては、子育ての各ステージに応じたきめ細かな支援を行うため、令和8年度から新たに「こども家庭課」を設置するとともに、専門的な相談を受けるこども家庭センターを設置し、安心して子育てできる環境づくりを推進します。また、令和8年度から下田保育所が下田認定こども園に統合となり、移行による環境変化が生じることから、園児及び保護者が安心できる保育環境の確保と安定した運営に努めてまいります。
高齢者福祉につきましては、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられることを目指し、コーディネーターを配置して高齢者の課題に寄り添うとともに、通いの場の活動の推進や認知症カフェ、認知症サポーター養成講座、介護予防教室等の実施による支援体制づくりを進めてまいります。
障害者(児)の支援につきましては、賀茂地区共同で、障害者計画、障害者福祉計画、障害児福祉計画を策定し、地域共生社会の実現に向けた取組を推進してまいります。地域医療体制につきましては、2次救急、3次救急の連携による広域搬送体制及び医師確保体制を維持するため、医療機関との連携を図ってまいります。
また、出産前後の妊婦さんやご家族の不安や負担を軽減できるよう、保健師、助産師による伴走型の相談体制や妊婦サポート 119、分娩施設への移動費用の助成等を進めるとともに、県や消防など関係各機関と連携した支援を実施してまいります。
5 おわりに
以上、令和8年度の市政について所信の一端を申し上げました。令和7年度は、本市の行財政を取り巻く環境を大変厳しいものと捉え、全市を上げて「公共経営改革」を検討してまいりました。
令和8年度からは、庁舎の開庁時間の短縮やそれに伴う人件費の削減など徹底的な効率化を行い、かつ新たな財源の創出、様々な主体との連携など経営の視点を組み入れた制度設計や職員の意識改革等を進め、希望のある未来のまちの姿及びそれに向けた道筋を市民の皆様に向けてご提示できるように努めてまいります。
混迷する社会、不透明な時代の中で、正当性や誠実さを力にして、下田市が持続可能で力強い自治体となるよう、市当局が一丸となって市政運営に邁進してまいりたいと考えております。
市民の皆様並びに議員各位におかれましては、どうか、互いにつながり、連携していただきますよう、心よりお願い申し上げます。
PDF版はこちらからご覧ください。
令和8年度 施政方針(pdf 787kb)