共通市章

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01.伝説「理源寺の厄除観音」

 大島の噴煙が真直に立ち昇り、この煙を染めて朝日が寝姿山の上に出てくると、広岡にも折戸にも鎌倉の窪にも明るい朝が訪れて参ります。静かに明ける麗かな早春の朝でした。
 理源寺の裏山には、遅咲きの桜が咲き山欅はもう若葉の緑を広げていました。小鳥の声に混って鴬の初音もきかれました。寺をとりまく田圃には緑の毛氈を敷きつめたように柴雲英草(れんげそう)が茂り所々に可愛いいピンクの花も咲き始めています。
 こゝ鎌倉の窪の石切丁場では、毎日大勢の石工達が働いていました。この丁場で働く石工達は、理源寺の本尊様(釈迦如来)に先づお詣りして、寺の横を通って裏山の入口の観音堂の前にくると必ずうやうやしく礼拝して丁場での安全を祈り、それからそれぞれの仕事場に行くのでした。
 厄除けの観音様として、土地の人達も遠くへ出かける時や、船旅の時にはお参りをして旅の安全を祈りました。それ程この観音様は御利益のある有難い観音様でした。
 そして毎日この谷あいの石切丁場では、石工達の石を切る鎚の音、のみの音が絶え間なく続いて、石塀に、石蔵に、石垣用にと積出しのために石を切り出している逞しい石工達の姿が、岩窟のあちらこちらに見られたのでした。
 今日も現場監督は理源寺の本尊にお詣りし観音様に厄除けの祈願を済せると石段に腰かけて石工達の来るのを待っていました。いつもの時間になっても石工達の逞しい姿が見えません。
はて!どうしたわけかな?、別に何もあったわけではないのに。
昨日の仕事が少々きつかったのに帰りの一パイを出さなかったので不服でもあるのか?と案じていると、青ざめた顔で腹を押えて一人が登って来ました。「どうも今朝程から腹が痛みまして上げる下げるの始末、本日は休ませて貰います。」次に又一人頭にしっかりと手手拭い鉢巻きをしてどこか浮かぬ顔で登ってきました。「どうも今朝起きましたら頭がふらふらして頭痛が直りません。本日は臨時に休ませて貰います。」、次から次から来る石工も、来る石工も気分が勝れない、女房が熱を出したとか、どうも皆に何かと支障がある。止むなく監督も本日は丁場は休みということにして、監督は観音様に丁寧にお詣りして帰って行きました。
が、仕事の予定も石の切出しも遅れるし、先様からは催足をうけるし、家にいても気が気ではありませんでした。昼食もそこそこに丁場の現場を一通り見廻って明日の切出しの段取りをと考えて理源寺の所まで来た時でした。異様な山鳴りがすると共に一大音響と共に石切丁場に落磐事故がありました。
 いつも十人余りが働いている鎌倉の窪では一番大きな丁場でした。
 幸なことに今日は臨時休業の日でしたので、一人の怪我人もありませんでした。病気だった人々も昼すぎには皆元気になり落磐事故を聞いて駈けつけて来ましたが、誰の一人も怪我人のなかった事を聞くと、誰云うとなく観音様の御加護だ、観音様の御加護で災難を逃れる事が出来たのだと、観音様の御利益を有り難く思い、厄除観音・災難除けの観音として、石工達は云うに及ばず近郷近在の人々も前にも増して観音様を厚く信仰し、ささやかながら御堂も改築して御利益に報いました。
下田市の民話と伝説 第2集より
 更新日:2007/04/01
 
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